第6回目は、サムライ伝Vol.2の池田 匡克氏が”侍”ならばこの人! と断言する中村 孝則氏。取材日は11月初旬とは思えない暖かい秋日和、孝則氏の茶室「壽福庵」へ伺い、お話をお伺いしました。連載中のLEXUSのweb magazine VISIONARYのプロフィールには、「コラムニスト。神奈川県葉山町生まれ。ファッションやグルメやワイン、旅やライフスタイルをテーマに、新聞や雑誌やTVで活躍中。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)、共著に『ザ・シガーライフ』(オータバブリケーションズ)」と記載。その他にも、先々月9月にはEU、パルマハム協会、グラナパダーノチーズ保護協会との協働の、パルマハム並びにグラナパダーナのアンバサダーに。先月10月には日本のプレミアムなモノやコトを配信するオンラインメディア「プレミアムジャパン」のエグゼクティブ・コントリビューターに就任と、多方面で活躍されています。
PREMIUM JAPAN Executive column
伺うと茶室へ通されます。お茶を点てられている孝則氏の着てみえたお着物が絹とは違うしなやかな美しさで、緊張していたことなどすっかり忘れ言及、まずはその艶やかで深みのあるお着物についてお聞きします。
「DORMEUIL(ドーメル)のスーツ生地でつくられた着物で、無地に見えるのですが、よく見るとグレンチェックです。 175年歴史があるフランスの生地ブランドで、これは若干ナチュラルストレッチで着心地もいいですね。遠目では無地、近くで見ると凝っていて柄がある。まるで日本の”江戸小紋”のようです。艶感もあり、道具も引き立てそうなので、茶席でも使えるのではないでしょうか。ドーメルのオーナーのドミニクさんは、遠目と近目の見目の変化を、江戸の粋とドーメルのエスプリは通じあってるのでは、と言ってみえました。裏地はキュプラでスーツ生地といっしょです。紋を入れればお茶会とかでもいいかなと思います。スーツ生地なのでクリーニングも簡単ですね。帯は女性ものの”龍村”の帯地を角帯に仕立てました。」
服好き着物好きゆえ、その着姿に興味深々です。このドーメルの生地で撥水加工のものなどもあり、お値段も生地によっていろいろとあるそうです。先日のイベントでは有名人の奥様の女性の方々もこのまったく新しい発想のスーツ感覚のウール生地で着物を誂えてみえたとか。和の素材で洋もの、洋の素材で和もの、和洋折衷なところが、サムライネクタイとリンクします。
その後も、茶道具、床のお軸やお花などなど取材などすっかり忘れて拝見質問します。お軸は孝則氏の剣道の師であり、範士8段、裏千家の教授でもあり能楽もされ、宮司でもありの多芸な方の書でした。達磨大師の禅語「一華開五葉(いっか ごようを ひらく)」。この書の意と余分な力のない自然体、そして師である剣士の力強い筆致。この墨蹟に孝則氏ご自身の世界観を垣間見ます。
サムライのルーツ
©堀 裕二
「幼稚園から高校まで鎌倉です。昭和40年代初頭は空前の剣道ブームで、少年剣道が全国で盛んになり、僕も小学校4年の時に剣友会に入会しました。鎌倉高校でも剣道部です。勉強はあまりしませんでしたが、剣道は1番一生懸命やったと思います。大学に入ってからは、剣道部に入らず、今通っている金王神社(渋谷区)の金王道場に入り、それから30年です。週2回とか3回とか通っています。他の道場に出稽古に行ったりもしますね。海外へ行っているとできないので、帰国してすぐに空港から直接稽古場へ行ったりもします。定期的に試合にも出ていますし、今年の秋だけでも4回ぐらい出場しています。いつでも試合に出られるというコンディションにしておくのが1つの基準ですね。」
サムライのいま
「今、教士7段ですが、8段にいつかは挑戦したいですね。8段はとても難しい。イメージで言うと、千日回峰行を終えて、亜砂利さまになるようなかんじです。毎年のべ1000人ぐらい中で1桁ぐらいしか受からないです。そろそろ準備していかないといけないんですが、今のままでは無理ですね。仕事柄ですが、美食三昧と美酒三昧ですからね。」と明るくお笑いになります。
「茶道でも同じで、”わび”ただけではだめで、勢いがないとお茶ではないのではと思います。剣道でも、本当に殺しにいくぞと言うか、本当に切りに行く力がないと受からないです。ただその切り方が重要で、堂々と切る。姑息とかだまし討ちとかだめですね。美しくない。美しい技で切る。」
”真剣”で殺りあう。。先日ある方に”日本刀”を持たせていただいた時の感覚が蘇りイメージしただけで恐怖に包まれる。そんな自分を律したあとに遭遇する精神の強さと、鍛えられたカタチの美しさがそこに在る。だからこそなのか、切り殺した相手への敬意も在る。 武士道に通じます。そして茶道同様に”禅”に通じます。
剣道や茶道など日本の芸道に長年にわたって鍛錬を重ねられている孝則氏は、現在”世界ベストレストラン50”と”アジアベストレストラン50”の日本評議委員長を兼任されていて、日本代表としても日本らしさを強く意識し世界へアピールされています。
「日本のチェアマンです。日本の伝統の芸道をしているので、日本のブランディングをどうするかとても意識します。日本にはすばらしい食文化があり、世界のシェフたちが日本の料理や食材などに常に注目しているので、我々にとっては当たり前のことですが、勉強し直すことは多いですね。日本の”おもてなし”もまたエクスクルーシブで世界に通用します。カタチだけではなく、レストランも総合芸術なので、総合的にその人の世界観を感じるレストランなどはおもしろいですね。」
レストランと茶室。まったく同じ作りの時空間でも、亭主とそのの表現方法で、まったく違う小宇宙が創造されるのと似ています。
たくさんの肩書きがある氏ですが、「もともと雑誌の編集をしたくて、いろんな雑誌社の編集をしていました。2000年に独立。編集的な受け方もしながら、”コラムニスト”として活動しています。男性も女性誌もやります。テーマは、ライフスタイルファッションからカルチャー、旅、食、酒、などいろいろですね。シガーは99年にドミニカへ取材に行ってからハマリまして、今は”メンズプレシャス”と”レオン”と2誌で毎号連載を書いています。”レオン”の創刊準備号から毎号欠かさず書いてるのいるのほは僕だけではないでしょうか。」
好きなモノ、コト、ヒトについての質問は、
「好きなモノ=アイテムは、茶道を長年しているので、お茶に関するものとかやはり好きです。旅へ出るとお茶に使えないだろうかとかいろいろ探しますね。好きなコトは、今、自分が趣味でやってる剣道とかお茶とかは好きですし、旅をするのも好きです。 好きなヒトはそうですね、時代を変えていくような人には惹かれます。例えば、最近、チャランポランタンという姉妹ユニットがいて、姉はアコーディオンを担当し、妹が歌などを歌うアーティストですが、世界のいろいろな人から競演したいとオファーが殺到していたりしています。好きな女性は、タイプが最初からあるわけではなくて、こういう人と自分は合うんだと、知り合ってから気がつくみたいなかんじですね。ある程度感性が豊かな人とか、アート全体に興味がある人のが一緒にいて楽しいですね。」ここで大いに盛り上がりますが、無難な文章で割愛します。
あなたにとってネクタイとはの問いには、
「ネクタイは、ひとことで言うと床の間の”お軸”みたいなものです。床が額縁で、中心の軸が最後の仕上げですから、その床を”象徴”するようなものですね。服で言えばシャツなどは下地で、Vゾーンは額縁、その中心にネクタイがあるのでやはり”お軸”です。その日の天気と、場所と、会う人のイメージで、ちょっとブルー系でクールに見せたほうがいいのか、ちょっとピンク系で明るくいったほうがいいのかなとか、ネクタイをするときのシーン、テーマ、色に沿ったもので、出かける30分前ぐらいに考えます。人のネクタイも気になりますし、すごく大事なアイテムです。僕はネクタイをしないとちょっと落ち着かないですね。」
勝負時に勝負がかけれられるかどうか
現代に侍的な男性がいるとしたらどんな人だと思いますか?の問いには、
「そういう男性はずいぶん減ったと思いますが、勝負があったときに勝負がかけられられるかどうか。先日ある政治家の通訳の人も言っていましたが、最近は勝負時に勝負をかけられない人が多い。今ここが勝負時という時に、勝負を後伸ばしにしたり、避けておいて後で実力があるんだなどと言うのではなく、勝負時に勝負がかけられる人。いつ勝負時が来るかわからないのですごく大事だと思います。あとは、そこで”捨てきれる”かどうかっていうのは大事な要素ですね。剣道で大事なのは”捨てきった”打ちかどうかということで、打ちに行くと隙ができますから、隙となる無防備の状態を怖れないことでもあり、怖さを捨てるというか、リスクをきちんと負えるということです。みなさん少し守りすぎではないでしょうか。でも”捨てる”機会をまちがえると無謀な打ちですし、別な言葉で言うと”タメ”がない。”タメ”と”捨てる”の差はなかなか説明が難しいですが。ただ”捨てきらない”人は多いですね。剣道でもお仕事の現場でも。」
©堀 裕二
”残心”ですか?とお尋ねすると、「”残心”とは、心を残すということで、剣道では”残心”がないと”1本”をとれないルールになっています。2つ意味があって、フィジカルな意味では、切った後でも反撃に備えて油断をするなということ。もう1つのメンタルな意味では、切った相手に対する敬意です。茶道で言えば次の動作に心を持っていかれずに、1つ1つの動作に気持ちを込め、最後まで心を残せば、ほとんどの粗相がなくなるというような感じです。」”残心”・・日本特有の余韻の美学です。
©堀 裕二
武士が誕生した”鎌倉”の地で育ち、侍達剣士がこころとからだと技を鍛える剣道を幼少時から半世紀近く続けられている孝則氏。現在は食の分野をはじめ多岐にわたる活躍をされていますが、源泉は”剣士”であり、同時に、もともとは将軍や侍たちの社交や宗教的慰安、礼儀作法など人間形成の場であることを含めた文化財である”茶道”も日常に在る。21世紀に生きる多くの現代人が見失った日本人的支柱を殻に持ち、歴史上帯刀し主君に命を懸けて忠誠を誓っていた時代の侍たちとは違い、今この時代の豊かさ、軽やかさを享受し、楽しみながら生きる。このハイブリッドな感覚こそ21世紀のサムライ的であり、孝則氏と海外との、ビジュアルやメンタル、フィジカルのコントラストが貴重であり、際立つ。
女「これから先、何かしたいことありますか?」
侍「弓道と居合道、書です。」
女「余命があと3日だったら何をされたいですか?」の質問には、
侍「自宅の茶室でお茶会を開いて、お世話になった人をお呼びして、3日連続で一服づつ点てようかと思います。お道具などを1つづつ差し上げながら、ガラクタしかないですが、みなさん持ってって下さいって。お世話になりました。と。」
メッセージ編
メッセージとして、ぜひとも孝則氏の緊張感ある剣道の試合の様子を、動画にてお届けします。
大事な勝負時にひるまぬ姿勢を